Mr.Children『miss you』考察 メンヘラ男の復活〜諦めと悟りの境地

『深海』以上の問題作であることは間違いない。若さゆえの絶望で終わる深海に比べて、50歳を超した主人公が人生に見切りをつけてしまっているという点で、深海以上に暗い作品といってもいい。

 

この作品の特徴は、『HOME』以降消失してしまった桜井和寿自身が主語の歌詞」とミスチルの真骨頂「メンヘラ気質の男の歌詞」が完全復活したことだろう。

 

表題曲「I MISS YOU」の「何が嬉しくてこんなん繰り返してる? 誰に聞いて欲しくてこんな歌 歌ってる」や「青いリンゴ」の「失ったものを悔やんでばかりいたって意味がないぜって歌ってた僕は今もいる」といった歌詞は、桜井和寿自身が主語であると捉えることもできる。

 

また、「Are you sleeping well without me?」や「Party is over」のメンヘラ度合いは初期作品を彷彿とさせる。

 

鬱屈とした前半に反して、後半3曲は一見何気ない日常を愛でるという「ここ最近のミスチル」に戻ってるように思える。が、そこにはどこか不穏な空気が漂う。

 

「欲張らないでいれば人生は意外と楽しい」「高望みしないでいれば成長も遠ざかっていく そんな迷いも2人なら答え以上の意味がある」(黄昏と積み木)

「賞味期限ギリギリのチーズも入ってるはずだよ ただそれだけの夕食 幸せすぎる食卓」(おはよう)

 

これらは日常を「愛でる」というより、現実はこの程度のものだと「諦める」という表現がしっくりくるように思う。

同じ諦めるでも「蘇生」のような「叶いもしない夢を見るのはもうやめにすることにしたんだから 今度はその現実を夢みたいに塗り替えればいいさ」という前向きさは見られない。

序盤の「LOST」でもラストの「おはよう」でも、相変わらず仕事終わりのビールだけが楽しみと歌っており、アルバム前半と後半で主人公の状況が本質的に好転している様子は見受けられない。

 

「Fifty's map ~おとなの地図」のMVにおいて、主人公が「くるみ」のMVを観ても自らは感化されずそのまま終わるところをみても、本作のテーマが「諦め」「悟り」であることは確かだろう。

 

「半世紀へのエントランス」というツアータイトルで50周年まで続けることを宣言した一方で、いつまでこの生活を続けるのかという桜井和寿自身の葛藤をリアルに歌ったアルバムともとれる。

 

『HOME』以降のミスチルがつまらなくなったという人にこそ聴いてほしい名盤だ。